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株式会社オンワードホールディングス

会長 廣内武氏

2017.03.21

Company

― はじめに、オンワードホールディングスの会社概要・企業理念、

 

 さらに今後の展望について教えてください。

 

オンワードという会社は、1927年に創業者である樫山純三氏が設立しました。

現在は、オンワード樫山を中核企業とする国内外104社を有するオンワードホールディングスに成長しました。私は3代目の社長としてグループ経営に携わってきて、今は会長を務めています。

 

日本は、第2次世界大戦で生活のほとんど全てが失われてしまいました。1945年の終戦後は、貧困の時代でした。

そのような時代の1948年に、オンワードグループの前身である樫山株式会社が設立されました。

人間が生きる上で必要な衣食住の中の「衣」を産業分野とする、 紳士服(スーツ)の会社です。

食べ物も着る物も乏しい時代に、大きな変革として大量生産システムを導入し、たくさんのお客様に服を買っていただくという既製服時代のフロントランナーとなりました。

 

最初は紳士服からスタートしましたが、マーケットの趨勢は女性が主役です。女性の社会進出と欧米ファッションの浸透による需要の増大に伴い、取り扱いブランドや商材は婦人服が中心となりました。その後、高度経済成長の流れに乗ってビジネスは拡大し現在に至っています。    

今では、紳士服は婦人服の三分の一の割合になっています。

 

 

 

どのような会社かとのことですが、オンワードの企業理念は、「ファッションを通して、人々の生活に潤いと彩りを与えるおしゃれな世界を実現することを目指した、総合生活文化企業」なのです。

 

そして、私たちの存在領域というのは、衣料を中心としたファッション産業です。

国内においては、モデレート分野からベター分野のアフォーダブルな中間ゾーンで展開し、海外においては、ラグジュアリー分野でのブランド展開を行っております。

服種ということになると、紳士服、婦人服、子供服などにとらわれることなく、生活シーンで求められる「ビジネス」、「スポーツ」、「ファミリー」など様々なものを取り入れます。

また、総合生活文化企業として、バレー・ダンスの総合用品、ペット用ファッション製品等の関連グループ企業に加え、グアムでのホテル、ゴルフ場を経営するリゾート事業も行っています。

 

 

 

経済には好・不況の波がありますが、戦後経済の最大の出来事は、1991年のバブル崩壊です。

経済の流れがインフレからデフレへと180度変わって、物事の価値観が変わってしまったのです。

 

デフレの中での価値観が本当に幸福感になるのでしょうか。

今、世の中の価値観が多様化してきて、同じ商品を買うのであればエシカルがいいとか、オーガニックが体に優しいとかの購買動機が必要なのです。それに加えて、地球環境を害していないか、価格訴求のため強制労働や児童労働を課して作られた商品であってはならないという、モラルの価値を消費者は見極めます。

このように、非常に成熟された価値観が、世の中に浸透しつつあると思います。

ファッションの場合には、それにプラスアルファとして、”something new”を掛け算してスピーディーに提案して行かなければ競争には勝てないのです。この”something new”という価値を創り出す挑戦を続けて行かないと、時代に置いていかれてしまいます。

 

 

 

そして、これからの時代はAI・人工知能です。

ITがいつのまにかAIまで来てしまって、囲碁で人間の知能が人工知能に勝てなくなってしまいました。

ファッション業界に於いても、デジタルファッションといった技術が、企画・生産・販売の新次元のサプライチェーンを創り出そうとしています。この分野はいわゆる未来挑戦型ですから、仕事そのものの切り口がクリエイティビティを要求されます。

そういった事にチャレンジしてクリエイトしてみようという事が、大切になってくると思います。

 

 

 

 

 

― JAFIC理事長として、業界全体に向けた将来の展望は何ですか。

 

JAFICは業界団体です。

ファッション・アパレルを主軸として、様々な分野の企業が会員として集まった組織です。

ファッション・アパレル業界がいかなる時代背景にあろうとも、国内外に遅れを取らないように、会員企業と価値観を共有して、グローバル時代の環境下での情報共有をし、解決策を見出して、それを会員企業にタイムリーに伝えていかなければなりません。

 

日本のアパレル産業についてですが、日本には、ウール、綿、合繊、ニットなどの素材産地が沢山あります。世界から認められている確たる歴史、伝統、匠の技を持った職人による織り・編みの技術と、その素材を完全なものに仕上げる染色加工技術が継承されてきています。しかしながら、長引くデフレと円高により、商品調達は海外シフトとなり、国産品比率は3%まで縮小してしまいました。これはたいへん大きな問題です。

日本の高質な消費を支えてきた中間領域の産業分野を復活させないと、日本のモノ作りそのものが消滅しかねない危機的状況に陥ってしまっているのです。

従って、この問題に立向かうためにも、「メイドインジャパン」「クールジャパン」「J∞ QUALITY」という、日本のモノ作り活性化事業の推進が重要となっております。

 

このことを達成して行くためには、人材の確保・育成が必須です。 

若い人たちがこの産業分野に魅力を感じていただき、遣り甲斐のある一生の仕事として積極的に参入していただくことを期待しております。

その為にJAFICという組織が、この産業分野でしっかりと活動して、学生の皆さんに、やりがいと生きがいが持てる魅力ある仕事であることを伝えていくことで、「デザインをやってみたい、パターンをやってみたい、こういったモノ作りをやってみたい、こんな生地を作ってみたい」など、希望と魅力のある産業であることを認知していただかなければなりません。

 

 

 

 

 

― アパレル業界への就職目指す学生に求める人物像、その学生に対してエールをお願いいたします。

 

皆さんは、概ね恵まれた環境に育っているせいか、横並び意識が標準装備されてしまっているように思われます。実際は、社会に出れば弱肉強食の世界で、ボーっとしていたらどんどん置いていかれてしまいます。

会社に入って 「自分はこれでいきたい」という時に、教育水準は高いし、インターネットは駆使できるけど、「じゃあどうするの」って言われた時に、具体的な答えが出せるかどうかが一番大事だと私は思います。

 

アパレル・ファッション業界は、凄く楽しいし、仕事も遣り甲斐があるし、自分の生甲斐も見つけられる業界なんです。

アパレル・ファッション業界に就職して、各自の天職となるどのような職種を選ぶのかが大切ですが、学生のときにしっかりした仕事への価値観を持っていて欲しいと思います。

 

 

 

― 既存の会員企業、登録クリエーターに向けてエールをお願いいたします。

 

 消費の実態が低価格に下振れしているため、中間領域の衣料品の売れ行きが悪く、我々の業界は非常に苦しんでいます。

これは、長引くデフレと消費増税を行った影響です。

 

このような環境の中で育った皆さんは、ファッションに興味がありお洒落はしたいけど、今はちょっと我慢しようという買い控えムードになってしまっているのです。

 

ただそのような状況でも、女性は食べ物と化粧品にはお金を使っています。

 

雰囲気のいいお店で美味しいものを食べたい、昨日よりももっと綺麗な自分でいたいというのが、女性の消費に対する永遠の動機付けではないでしょうか。

 

しかし本当におしゃれ好きな人は、デザインとか、色とか、もう少しレベルアップした服に挑戦してみたいと思っているのです。

 

春だから花柄を着ようとか、そういった遊び心をもったお客さまがどんどん増えていって欲しいと、ファッション業界全体として望んでいます。

 

 

 

一方で、ファッションビジネスは必ずしも規模が大きくなれば良いとは思っていません。

サクセスに繋がるかどうかは、いろいろな構成要素がエスタブリッシュされているかどうかに関わってきます。

 

モノ作りにおいて、仕事が分業化されるという事は単能工的ということであり、この業界にとっては、多能工か単能工かという事が今後非常に大事な切り口になっていくと、私は考えています。

 

 

 

去年パリで、ラグジュアリーブランドの工房を二ヶ所見学しましたが、一つ目の工房では女性がバッグの全行程を一人で作っていました。

 

これはまさしく多能工です。

ものづくりの原点である、手作りという伝統的な技術を、常にレベルをキープしながら新しい時代に伝承し、さらに上質なものへいかに進化させていくかという考え方が根付いているのです。

 

もう一つの工房は、世界に唯一の自分だけの特注品を受注生産していました。

例えば自分のパソコンケースを、この柄とこの素材で作って欲しいという要望を聞いて作るのです。

 

その代わり凄い時間がかかるんです。3ヶ月や半年はざらだと思います。

 

その分高価ですが、世界に一点しかない自分だけのモノなのです。

こういう特注品は、熟練工が一つの商品を作り上げる時間と単価を掛け算したものが値段の基本になっています。

 

 

 

私は元来、ファッションというものは楽しいものだと思っています。

 

世の中のほとんどのモノやコトがファッションなのです。

 

 

 

ところで皆さんは、サミットや映画祭などで見かける各国首脳や映画スターなど世界の要人やセレブリティ―を見て、どこか雰囲気が違うなと思うことがありませんか。

 

着こなしやファッションの違いが分かるか分からないか、これが大事だと思うのです。

 

一概には言えませんが、世界のラグジュアリーブランドに日本のアパレルファッションはなかなか追いつけない、このギャップは簡単には埋まらないと思うのです。

 

もちろん日本にも、世界水準を超えた素材や製品を作る人たちはいますが、まだまだスタンダードとはいえません。

 

一方でイタリア製の素材とかファッション、モノ作りは、スタンダードとして世界で認められています。

 

また、デザインやスタイル、モードの発信で言えば、パリコレには一日の長があると思います。

何百年もかけてグローバルスタンダードを作り上げた歴史があるのです。

 

 

 

欧米のファッションスタンダードに対して、日本のファッションビジネスがいかに追いつき追い越すかが大きなテーマなのです。

 

私は、何としても東京を5大ファッション都市の一つにすることがとても重要なことだと思っています。

パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨーク、ここに東京が加わって初めて世界に向けて日本のモードを発信できるのです。

 

若いクリエーターたちも個々に発信をしていますが、一つの大きなうねりとか規模感として世界的で認知されていないのが現状であり、業界団体として責任を痛感しています。

 

しかしながら、一アパレル団体ができることには限りがありますから、2020年の東京オリンピック、パラリンピック開催という追い風が吹く今こそ、世論も巻き込んで東京都と協力し、五大都市構想の実現に邁進していきたいと思います。

 

 

 

ファッションはモードです。

モードが発信されてファッションとなり、やがてスタイルとして確立されていきます。

世界のクリエーターはモードを発信します。

それが一般化され、ファッションになります。

 

 

 

人はTPOに応じて洋服やバッグ、靴を探し求めます。そして商品をよく吟味し、惚れ込んで買うのです。その一点一点を作っているのがメーカーです。

ですから、消費者が求める最終製品を作るアパレルファッション企業が生き残る為には、メーカー機能を飽くなく追求して進化し続けることが極めて大切なことです。

 

そのための仕組みや手法はIT化に伴い急速に進化していますが、最終的に形として残る証が「いい商品」なのです。

すなわち、お客様から「いい商品」と言っていただけるモノを永続的に提供することがメーカーとして一番大事なのです。

 

 

日本人のみならず、世界中の人々の琴線に触れるモノ作りを大切にすることはいつの時代も不変だと思います。

 

 

この業界について、私の知らない頃から現在までに起きた、様々なお話をしてくださりました。

また廣内会長ご自身の考える、今後の業界の展望をお聞きする事ができ、大変貴重な機会となりました。

その中でも特に、東京コレクションを世界5大コレクションの中に入れるという業界における展望や、やりがいがあり楽しい業界と若者に認知してもらいたいといった将来像は、大変心に響き、エネルギーのあるエールでした。

お忙しい中、ありがとうございました。

 

橋爪彩夏

1994年生まれ。実践女子大学 生活科学部所属。

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